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2026.08.03 — 事業のはなし

AI時代に、リアルな場所へ投資する理由——箱は入口、コミュニティがエンジン

AIで会社を回す毎日のなかで、ひとつ確信したことがある。次に張るべきは、画面の中ではなく、リアルな場所だ。チェンマイに箱を借り、会員制のラウンジをつくる——その判断の裏側を、正直に書いておきたい。

机の前の時間は、静かに安くなっていく

僕たちは、AIで仕事をする会社を経営している。提案資料も、データ分析も、コードも、文章も、かつて丸一日かかっていた仕事が、いまは数十分で仕上がる。便利になった、という話をしたいのではない。毎日それを目の当たりにしていると、もっと静かで、もっと大きな変化に気づく。机の前で完結する仕事の価値が、目に見えて下がっているのだ。

これは脅しでも未来予測でもなく、自分の会社の中ですでに起きていることだ。昨日まで専門家の腕前だったものが、今日にはツールの標準機能になる。その速度は、経営者として見積もっていたよりずっと速い。だとすれば、問いはひとつしかない。機械がどれだけ賢くなっても、最後まで人間の側に残るものは何か。

AIに仕事を渡すほど、僕自身の一日は妙なことになっていった。手を動かす時間が減り、判断する時間だけが残る。そして良い判断は、疲れ切った脳からは出てこない。皮肉なことに、AIを使い倒す経営ほど、経営者のコンディション——眠り、身体、気分——が成果に直結するようになる。机の前の時間が安くなるのと同じ速度で、机を離れた時間が高くなっている。

残るのは、身体と、直感と、人の縁

先の問いへの、僕の答えは三つだ。よく整えられた身体。理屈より先に動く直感。そして、信頼でつながった人との縁。この三つだけは、どれだけモデルが賢くなっても複製できない。情報は無限にコピーできるが、同じ部屋で汗をかいた記憶はコピーできない。画面越しの百回の打ち合わせより、サウナ上がりの一度の雑談のほうが、人と人の距離を縮めることを、僕はもう知ってしまった。

だから僕たちは、次の投資先をデジタルの中に探さなかった。サウナで身体を追い込み、アイスバスで思考を一度まっさらにして、そのあとビリヤードを撞きながら誰かと笑う。そういう時間が流れる「リアルな場所」に張る。AI時代にリアルへ向かうのは逆張りに見えるかもしれないが、僕の目には順張りに映っている。価値が移っていく先に、先回りして席を取るだけの話だ。

箱は入口、コミュニティがエンジン、ブランドが資産

利休は、サウナとアイスバス、ビリヤードにVIP和室を備えた180平米の箱だ。ただ、僕たちはこれを「箱の売上を最大化する事業」だとは考えていない。箱単体の商売として眺めれば、これは決して派手な事業ではない。それでもやる理由は、事業の構造が三層になっているからだ。

箱は入口、コミュニティがエンジン、ブランドと人脈が資産。——利休の設計思想を、僕は一行でこう書いている。

箱は入口。人がこの場所を知り、扉を開けるきっかけにすぎない。エンジンはコミュニティ。同じ場に通う人たちのあいだに生まれる縁が、相談になり、協業になり、やがて次の事業になる。僕たちの本体はここだ。そして最後に、資産としてのブランド。「利休の会員である」ということが人柄の証明として静かに機能しはじめたとき、この屋号は損益計算書に載らない資産になる。箱の家賃は経費だが、縁と屋号は複利で増えていく。

この構造で見ると、日々の売上は事業のいち指標でしかない。箱から生まれた縁が、一年後にどんな仕事へ育っているか。会員が利休の名を、どんな顔で誰に語っているか。僕たちが本当に追いかけたい数字は、むしろそちら側にある。

会員制という選択——開くことより、閉じること

だから利休は、誰にでも開かれた店にはしない。会員制という閉じた場を選ぶ。閉じることは、排除ではない。信頼の設計だ。扉の内側にいる全員が「ここがどういう場か」を了解している。だから初対面でも警戒がいらず、肩書を外した話ができる。開かれた店では千人とすれ違えるが、閉じた場では十人と深く出会える。僕たちが欲しいのは、後者だ。

静の「休」——ただ整えることに使う間と、動の「利」——整った頭のまま人と交わる間が、同じ屋根の下に同時にある。サウナとラウンジに、酒は置かない。酒は夜の和室にだけ許す。酒の勢いで結ばれた縁は酒とともに醒めるが、サウナ上がりの澄んだ頭で交わした約束は、翌朝も残る。茶室が、躙口をくぐった者だけの一座だからこそ濃くなったように、閉じた場にしか生めない深さがある。

三方よし——チェンマイから、100年続く会社へ

売り手よし、買い手よし、世間よし。近江商人のこの言葉を、僕たちはそのまま事業の判定基準にしている。会員にとっては、身体が整い、縁が生まれる場。僕たちにとっては、次の事業が芽吹く土壌。そしてチェンマイの街にとっては、日本の美意識に触れられる一軒。この三つのどれかが欠けるなら、この事業はやる意味がないと思っている。

AIの進化は止まらないし、止める気もない。僕たちはこれからも、機械に任せられる仕事はすべて任せていく。そのうえで、人間にしか持てない資産——整った身体、磨かれた直感、信頼の縁——が集まる場所を、チェンマイに一軒、置いておく。流行のあいだだけ回して畳む箱ではなく、100年続く会社の一階として。リアルな場所への投資とは、いちばん新しい時代に、いちばん古い資産を買うことだ。僕はそう考えている。

整う。遊ぶ。つながる。
チェンマイ・ナイトバザール3F ジャパニーズ ウェルネスラウンジ「利休」— 2026年開業準備中